東京の片隅で奄美しま唄を習う

奄美しま唄三線目黒教室のことを書いています/奄美民謡に興味ある方いらっしゃい

【動画】国直米姉節(くんにょりゆねぃあご)【練習風景】

久しぶりの更新です。奄美民謡のひとつ国直米姉節の動画をアップしました。

動画の編集もしつつテキストも考えないといけないというのが、自分の能力的に時間がかかってしまうので、仲間の力を借ることに!

同じシマ唄教室のYさんに相談したところ、快く寄稿してくれました。Yさん、本当に感謝しています。届いた記事を読んでまず私が思ったことは、「文章力半端ねぇ・・・」でした。以下Yさんの国直米姉節解説をどうぞご覧ください!

 

国直米姉節「くんにょりゆねぃあご」について

奄美大島のちょうど真ん中あたり、東シナ海に面した大和村・国直(くになお)集落に居た美人、米(ゆねぃorよねorゆに)姉さんについて歌われている。

 

国直を”くんにょり”と読むのは方言(地元での呼び方)で、その他にも大笠利(おおがざり)を”ふうがさん”と呼んだり、赤木名(あかきな)の事を”はきな”と呼ぶなど、正式名称と地元の人の呼び方が異なるのは奄美でよくある現象だ。

姉さん=あごという言葉

また、姉さんと言う意味で使われているアゴと言う言葉だが、現在の奄美大島では使われていないのに、唄の中ではちょいちょい使われていて(かんつめ節の”かんつめあごぐわ”や徳之島節の”千松あごぐわ”など)、奄美民謡を習っている人なら「姉さんって意味ね。」って感じだろうが、この「アゴ」実は気軽に使ってはいけない単語だ。

南方新社から2006年9月に発刊された「奄美の債務奴隷ヤンチュ/著:名越護」の記事(P88)を以下に引用する。

 

主人からヤンチュを呼ぶときは多くは呼び捨てで、主人の子供たちがヤンチュを呼ぶときは、下人に対しては「アジャ」、与路島だけは「ウヱッグワ」、「ヤンクワ」「ヤンメ」と呼び、下女に対しては「アゴ」「アゴッグワ(吾が子が転じたもの)」と呼んだ。

ヤンチュ同士または百姓から呼ぶときも大抵同様のようだ。筆者が幼少の頃「××ヤンメ」とか「××アゴ」と呼び合う年寄りの言葉を聞いたことがあり、筆者の生まれた宇検村生勝にも、かつてヤンチュがいたことがわかる。現在はほとんど死語になっているのは当然だ。

 

 

題名にもなっているヤンチュとは、藩政時代に奄美諸島に発生した債務奴隷のことで、島民は薩摩藩による厳しい黒糖政策に直面し、借財がかさんだ島民は、自らの体を豪農に売ってヤンチュに転落した。その数は、集落によっては人口の5割を占めたと言う。

つまり、アゴというのはヤンチュの女性に対して使われる言葉で、この米姉さんは美人なヤンチュの女性だったと思われる。

また、終わりの無い辛い奴隷生活を慰めるため、唄はヤンチュの間で盛んに唄われ発展したとも言われているので、登場人物がヤンチュだとしても違和感は無い。

歌詞解釈

それを踏まえていざ歌詞を読んでみると、

 

国直米姉や 国直島中ぬ美人(キュラムン)じゃ

国直の米姉さんはべっぴんだ

国直米姉や 山下青年(ニセ)んきゃにゃ及ばんど

山下青年などは到底引き合わない

 

この到底引き合わないと馬鹿にされている山下青年には、ヤンチュの男性を呼ぶ「アジャ」が付かない。それどころか苗字で呼ばれ、青年(ニセ)まで付いている。家柄は良いがパッとしない青年だったのだろうか。

 

国直米姉や 頭(カマチ)やうがしど結(ゆ)わらんにゃ

国直の米姉さん 髪はそのように結うものですか

なぁなり引きつきて 頭(カマチ)や真頂(まちじ)に結わらんにゃ

もう少し頭の真ん中にきちんと結ったらどうですか

 

米姉はどんな髪型をしていたのだろう?そんなにダサかったのか。もしくは顔が整いすぎて面白みがないので、わざと抜け感を出したのだろうか。

米姉もまさか自分の髪型を馬鹿にされた唄が数十年、数百年も歌い継がれ、ネタにされるとは思っていなかっただろう。

 

国直米姉や お十五夜の大月

国直の米姉さんは美しい十五夜の月のようだ

国直峰次郎や 二十日夜ぬ夜闇

それに比べて国直の峰次郎(みねじろう)は二十日夜の暗闇のよう 心も姿も暗く醜い

 

この「心も姿も暗く醜い」という訳はひねくれた感性で私が考えたわけじゃなく、昭和8年に出版された「奄美大島民謡大観」から引用した。

リズミカルなメロディーに乗せておこなわれる峰次郎へのいじめ(いじり)。

 

このように、耳に残るポップな曲調と、繰り返されるフレーズはその場にいる皆が楽しめそうだし、本来は唄遊び(即興で歌詞を考えて歌う遊び)だったのでは無いだろうか。友をディスって遊ぶ大喜利として、若い男女が異性の集まる飲み会などで、盛り上がる姿が容易に想像できる。


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